道路掃除夫ベッポの言葉(モモ)

「なあ、モモ、」とベッポはたとえばこんなふうにはじめます。「とっても長い道路をうけもつことがあるんだ。おっそろしく長くて、これじゃとてもやりきれない、こう思ってしまう。」
しばらく口をつぐんで、じっとまえのほうを見ていますが、やがてまたつづけます。
「そこでせかせかと働きだす。どんどんスピードをあげてゆく。ときどき目をあげて見るんだが、いつ見てものこりの道路はちっともへってこない。だからもっとすごいいきおいで働きまくる。心配でたまらないんだ。そしてしまいには息がきれて、動けなくなってしまう。道路はまだのこっているのにな。こういうやり方は、いかんのだ。」
ここでしばらく考えこみます。それからようやく、さきをつづけます。
「いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん、わかるかな?  つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけ、つぎのひと掃きのことだけを考えるんだ。いつもただつぎのことだけをな。」
またひと休みして、考えこみ、それから、
「すると楽しくなってくる。これが大事なんだな、楽しければ、仕事が上手くはかどる。こういうふうにやらにゃあだめなんだ。」
そしてまた長い休みをとってから、
「ひょっと気がついたときには、一歩一歩すすんできた道路がぜんぶおわっとる。どうやってやりとげたかは、自分でもわからんし、息もきれてない。」
ベッポはひとりうなずいて、こうむすびます。
「これが大事なんだ。」

(時間は長さだけで計れるものではない。その時間の中でいったい何を体験したのか、それこそが本当の時間の計り方。ドイツ文学者  堀内美江)


・先が見えないような、気が遠くなる時。
不安で動けない時。
出来る事を一歩ずつ進めていく。

・時間は、何分、何時間かかったか、ということよりも。どう過ごしたのか、どういう在り方をしたのかが大切。

ディドロ効果 」という心理現象があるそうです。例えばブランド物を一つ持つと、他の物も高い水準の物を揃えたくなる効果だそうですが。これを掃除に応用すると。家の中の掃除を全てしようとすると気が重くなってしまっても。トイレだけをまずピカピカに掃除すると、他の掃除していない部分がいろいろと気になりはじめ、気づくと家中掃除していた。こういう事もあるそうです。