NHK アカデミア 第 17 回 睡眠学者 柳沢正史
「昼間にどうしても眠くなってしまう。昼過ぎとかランチを食べたあとに眠くなってしまう」
当てはまる方は、まず間違いなく睡眠が足りていないです。 「行動誘発性睡眠不足症候群」というんですけれども、睡眠不足も立派な病気なんですね。
「昼間に眠気を感じるというのはどこかおかしい、異常であると思ってください」。日本人は、「昼 間にちょっとくらい眠くなるのは仕方ないよね」と。夜に寝る間も惜しんで一生懸命働いているんだから、それは仕方ないと思っていると思うんですが、これは世界標準ではおかしい考え方なんです。
「質のいい睡眠をとって、何とか短い睡眠時間で過ごすことはできないですか」と聞かれるんですけれど、それは不可能ですね。「“質”で“量”はカバーできない」ということです。
1 日 4 時間や 5 時間の睡眠でも、何の問題もなく健康で、昼間も元気でパフォーマンスも低下せずという人が 真性の「ショートスリーパー」なんですけれど、真性のショートスリーパーは、私の感覚では非常にまれです。 恐らく、数百人に一人、あるいはそれ以下です。よく言われる、「訓練すれば、ショートスリーパーになれる」 というのもウソでして、良い子は絶対にやめてほしいです。その人にとって十分な睡眠をとらない生活は健康のために非常に危険です。何時間睡眠をとれば、必要十分かというのは、遺伝子で決まったもの。その人の生まれつきの体質で決まっていると考えていただいて結構です。変えることはできないと思ってください。
人間の場合は平均する と、1 日 7 時間前後眠るとなっています。長く起きていれば、だんだん眠くなるわけです。それがどうしてなのか。それから睡眠をとらないと、どうなるか。例えば、いわゆる“メタボ”、メタボリック症候群は、高血圧、 肥満、糖代謝異常、そういったものが組み合わさった成人病の状態です。このリスクが、睡眠が悪いとどんどん上がるということが知られています。そういうのが、ひいては心血管疾患や重篤な病気につながったりするわけですね。それから、例えば、睡眠を邪魔し続ける、断眠を続けると、ネズミは最終的に死んでしまいます。
「レム睡眠」は、浅い睡眠だと思っている方もいるんじゃないでしょうか。非常にビビッドな、生き生きとした夢を見るのがレム睡眠なんです。夢を見るということもあって、レム睡眠は浅い睡眠だと思っている方も多いんですが、それも大きな誤解です。レム睡眠は、実は少々の刺激があっても起きないぐらい、深い睡眠なんです。しかも、レム睡眠は、非常に重要であるということが最近言われていて、「レム睡眠の量が減ってしまうと、寿命も短くなる」という論文が出ているし、「レム睡眠の量が減ると、認知症になりやすくなる」という論文まで出ています。
上の図は、各国の平均睡眠量が、横軸。縦軸が、1 人あたりの労働生産性を示しています。悲しいことにですね・・・右の方に固まっているのが、いわゆる欧米の先進諸国ですけれども、それと比べても、日本人というのは 1 時間近く睡眠量が少ないんです。それと同時に、残念ながら 1 人当たりの労働生産性も低いです。これは相関を描いたグラフなので、因果関係はここからは簡単には分からないんですが、実は因果関係があるという研究も、最近は出てきているんです。例えば、「社員がよく眠っている会社の方が、利益率が高い」とか、そ ういう経済的な研究も出てきているということです。だから、まさに先ほど言った、寝る間も惜しんで働くというコンセプトは、世界標準ではナンセンスだということになるわけです。睡眠不足というのは、経済面でも健康面でも大きな損失です。昼間に眠いのは異常。これは覚えておいてください。
私の基本的な考え方。これは皆さんにもお勧めしたいんですが、睡眠時間というのはお金に例えて言うと、“住宅ローン”みたいなものなんです。毎月毎晩支払わなければならない、必要経費だと思ってください。ぜいたく品ではないということですね。「1 日、いろんなことを一生懸命やって、これだけ時間が余ったから、そこ で睡眠をとろう」。これではだめです。住宅ローンでそれをやっていると、やばいですよね。それと同じで、 「睡眠時間というのは、最初に確保しておくべき必要経費だ」ということです。
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「 昼間に眠いのは異常 」この言葉は、衝撃でした。なぜなら、昼食後の昼間は眠くなるのが普通と思っていたからです。しかし、睡眠時間をしっかりとる生活を心がけると、なんと昼間に眠くなくなりました。まさに、「 昼間に眠いのは異常 」だったのを実感です。
睡眠が変わることで、人生変わるかもしれません。
